大予想!【箱根駅伝 2026】 優勝のカギは…『山のスペシャリスト』たち

【青山学院大学 黒田朝日】MARCH対抗戦では大会新の27分37秒で優勝。2区の区間新記録を狙えるレベルの実力を持つ青学の大エース

青学の不安要素

’25年の箱根駅伝で10時間41分19秒の大会新記録を叩きだした王者・青山学院大学の3連覇に、黄信号が灯(とも)っている。

「箱根駅伝と並んで学生三大駅伝に数えられている出雲駅伝(10月13日)で7位、全日本大学駅伝(11月2日)で3位と振るいませんでした。前回箱根駅伝の4区で区間賞を取った太田蒼生、5区で区間新記録を叩き出した若林宏樹、同じく6区で区間新の野村昭夢(あきむ)が卒業してしまったこともあり、不利な展開をひっくり返す力を持つゲームチェンジャーが見当たらない。青学は逃げ切る力はピカイチなのですが、スタートから躓(つまず)いてしまった場合、逆転は難しいかもしれません」(元箱根駅伝ランナーでスポーツライターの酒井政人氏)

前回の青学は、1区で10位と出遅れ、2〜4区で追い上げ、5区の若林が逆転して往路優勝、復路で逃げ切って総合優勝を果たしている。つまり、昨年のような″往路での逆転力″が期待できない分、苦戦が予想されるのだ。

「とはいえ、今年の″花の2区″を走ったエースの黒田朝日(4年)は、今の学生の中でもトップクラスのランナーです。11月22日のMARCH対抗戦(1万m)では大会新記録の27分37秒で優勝しており、来年も2区で快走するでしょう。
また、青学は箱根に向けた調整力には定評があり、3区や4区の選手も、下馬評以上の走りを見せてくれるのが例年のパターン。2区の黒田でアドバンテージを奪い、3区、4区で優位を保ち、そのまま先頭を譲らずにゴールテープを切るというのが、原晋(すすむ)監督(58)が描くシナリオでしょうね」(同前)

MARCH対抗戦では、学生トップランナーの指標の一つである27分台を記録した選手が黒田の他に4人いる青学。選手層の厚さは出場校の中でも随一であり、5区、6区にとっておきの″隠し玉″がいる可能性も否定できず、優勝候補の一角であることは疑いようがない。

山上りの5区…下りの6区

青学と同様、往路優勝からの逃げ切りを図るのは、昨年から箱根駅伝で″山の名探偵″として一世を風靡している工藤慎作(3年)を擁する早稲田大学、そしてMARCH対抗戦で27分台を記録した藤田大智(3年)、溜池一太(4年)、濱口大和(1年)の3名が所属する中央大学だ。元早稲田大学競争部駅伝監督で、現在は住友電気工業陸上競技部監督の渡辺康幸氏が話す。

「優勝する大学には必ず、ゲームチェンジャーとなる選手がいる。中でも差がつきやすいのは、5区と6区です。つまり優勝のカギを握るのは、各大学の『山のスペシャリスト』たちなんです。その中でも、早稲田の5区を走る工藤はトップの選手。加えて、早稲田には今年の1区を走った間瀬田純平(4年)、2区を走った山口智規(とものり)(4年)が残っており、さらには世代トップクラスの走力を誇り、3区か4区の起用が予想される鈴木琉胤(るい)(1年)もいる。役者揃いなので、往路優勝の可能性は高い。ただ、青学などに比べ復路の選手層が薄い印象はぬぐえません。
中央は上位10人の1万mの平均タイムが27分台で最速です。トラック上のタイムは良いのですが、高低差のある箱根でその走力を発揮できるかは未知数。山上りの5区、下りの6区という特殊区間を乗り越えられる選手が出てくれば、優勝できるポテンシャルはあるでしょう」

一方、留学生エースのスティーブン・ムチーニ(3年)の調子がイマイチ上がってこない創価大学、全日本駅伝の2区で区間賞を記録した楠岡(くすおか)由浩(3年)を擁する帝京大学は、選手層の薄さが目立つため、優勝候補には挙がってこない。

【早稲田大学 工藤慎作】アシックスの超厚底「山上り専用シューズ」を履きこなす数少ない選手。全日本駅伝では8区の日本人記録を更新
【中央大学 溜池一太】中央を引っ張るエースとしての自覚が芽生えたか、自身のXでは「箱根は勝ちます」と堂々の勝利宣言を行った
【創価大学 スティーブン・ムチーニ】創価が上位に食い込むには前回3区で区間2位に入ったケニア出身の留学生・ムチーニの活躍が必要不可欠
【帝京大学 楠岡由浩】全日本駅伝では駒澤の佐藤の区間記録に並ぶ31分01秒で区間賞。孤軍奮闘感は否めないが、帝京を牽引する

「山下りの神」

出雲駅伝で連覇を達成し、悲願の箱根初制覇を狙う國學院大学の戦力は充分だが、やはり鬼門は″山″だ。

「國學院のエースは、全日本と出雲の双方で快走した3年生の野中恒亨(ひろみち)。1万m27分台の走力の持ち主で、今年卒業したエース・平林清澄から花の2区を受け継ぐと思います。しかし、上位の大学で2区を走る選手たちは、青学の黒田を筆頭に1万m27分台を連発するようなツワモノ揃いです。そう簡単に何分も差が開いたりはしません。カギとなる5区を誰が走るのか、そして早稲田の工藤ら山のスペシャリストとどれだけ勝負できるかが課題でしょう」(駅伝・マラソン解説者の金哲彦氏)

前出の酒井氏は金氏に同調しつつも「野中は2区向きではない」と話す。

「彼は平地に強いですが、上りが得意ではない。2区の終盤には『戸塚の壁』と呼ばれる急な坂があるため、3区など他の区間に回るかもしれません。その場合、11月16日に行われた『上尾シティハーフマラソン』で日本人学生歴代10位タイの記録で優勝した青木瑠郁(るい)(4年)、主将の上原琉翔(りゅうと)(4年)あたりが2区の候補になるでしょう。他にも高山豪起(4年)、辻原輝(3年)ら國學院には実力のある選手がたくさんいますが、一方で山に強いイメージのある選手がいない。前回大会は5区で14位、6区が16位でした。前田康弘監督(47)の5、6区をめぐる采配で結果が大きく変わるのが、来年の國學院です」

絶対的エース・黒田を擁しながらも、真骨頂だったはずの5区に不安が残る青学、そして5区に絶対的なエースである「山の名探偵」を配置しながらも、復路の戦力に乏しい早稲田、エース区間の起用法が定まらない國學院——。優勝候補の各大学がそれぞれの不安を抱えている中、前出の渡辺氏が優勝候補の筆頭に挙げたのは、今年の全日本駅伝優勝校・駒澤大学だ。

「ケガから復帰したエース・佐藤圭汰(4年)は、本調子でないながらも全日本で区間3位の快走。箱根までにさらに調子を上げてくるでしょう。そして、鬼門の5区には、前回大会と同様に山川拓馬(4年)を配置できる。佐藤と山川というWエースに加え、箱根を経験したメンバーがあと7人もいる。選手層の厚さ、そして積み上げてきた経験値を考えると、駒澤が頭一つ抜けています」

しかし、佐藤と山川を往路に投入できるとはいえ、経験と実力を兼ね備えたランナーが複数いるのはライバル校も同じ。それでも、全国の大学駅伝関係者の間で「駒澤優勝」を予想する声が多い理由は他にある。「山下りの神」の存在だ。

「往路における山上りの5区と同じように重要なのが、山下りの6区。この区間を走る伊藤蒼唯(あおい)(4年)は、過去に6区を2度走っており、1年生で区間賞、3年生で区間2位と、トップクラスの成績を残しています。今回も6区に起用されれば、区間賞を充分に狙えるでしょう。前回大会は青学の野村が6区の区間新記録を更新し、勢いそのままに青学が総合優勝を果たしましたが、伊藤がその役割を担うかもしれない。
往路で佐藤・山川が快走し、復路のスタートで伊藤がリードすれば、選手層の厚さとバツグンの安定感を誇る駒澤の総合優勝が近づくはずです」(同前)

駒澤か、はたまた青学か、國學院か、早稲田か? 5区、6区の攻防が、優勝へのカギになる。

【國學院大学 野中恒亨】練習の始めに「今日はどんな感じの接地にしてほしい?」とシューズと″会話″する衝撃のルーティンの持ち主
【駒澤大学 佐藤圭汰(右) 山川拓馬(左)】佐藤、山川という二大エースの活躍で往路3位に入っていたい。6区の伊藤で逆転すれば、総合優勝の可能性大