「芸人=ギラギラ感」は過去のもの?大御所ほど“好き勝手できない”問題を考える

『芸人キャノンボール』が9年ぶりにU-NEXTで独占配信を開始し、SNS上で高評価を得ている一方、一部から「芸人たちのハングリーさをもっと見たかった」という声もあるようだ。

 かつて年間100本以上のライブに出演し、自身もライブ主催者の経験もあるという現役の芸人・帽子田は「いまや芸人はガツガツする生き物ではない」と語る。今回は「芸人のハングリーさ」に焦点を当て、なぜ今の芸人から“ガツガツ感”が失われたのかを、現役芸人の目線から徹底的に分析する。

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安心して見れた『芸人キャノンボール2025』

 藤井健太郎さんが手掛ける特番『芸人キャノンボール2025』が復活した。芸人たちがいわゆる大規模な「借り物競争」をするというシンプルながら興味をそそられるコンセプトで、出演者も千原ジュニアさんや元ロンドンブーツ1号2号の田村淳さん、有吉弘行さん、麒麟の川島さん、劇団ひとりさんなど超豪華だ。

 僕も2016年の放送のファンだったので、復活に胸を躍らせながら見てみたのだが、鑑賞後はなんとなく前作とは違う感覚を持った。番組自体はとても面白かったのだが、「2016年と比べてハラハラせず安心しながら見れる」という感想を持ってしまった。

 もちろん全然それに関しては悪くない。しかし、ほとんど同じ出演者なうえに、初参戦の人も一線級の人ばかりなのに、2016年版の方が若干粗削りながらワクワクしながら見れた。

 なんなら藤井さんが手掛ける『水曜日のダウンタウン』の挑戦企画の方が面白いと感じて少し残念だった。これは僕だけの意見ではなく、SNS上でも同じような意見が見て取れた。

出演者がみんな売れ切ってしまった

 どうしてこの現象が起こったかというと、おそらく出演者の人が2016年から比べてかなり「売れ切ってしまった」という事もあるだろう。以前から売れて大人気だった人たちばかりだが、今では皆押しも押されもせずの大御所だ。

 やはりゆったり構えているので、水曜日のダウンタウンに出てくる若手と比べて、爪痕を残してやろうというハングリー感がなく見えてしまうのかもしれない。

 僕の個人的な信条だが、芸人の魅力のひとつに「ガツガツ感」があると思っている。大御所芸人たちのどの番組に出ても合格点のヒットを必ず出す凄まじさももちろん分かるが、若手ならではの「ガツガツ感」こそが芸人の専売特許のような気がしている。

「ガツガツする」デメリットが大きくなった昨今

 最初に、「なぜ大御所になるとガツガツしないのか?」について考えてみよう。それはもちろん、「既に売れ切っているので、ガツガツする必要性がないから」だ。大前提この考えがあるとして、今回は違う視点からも見ていきたい。

 大御所芸人がガツガツしなくなったのは、「ガツガツする」ことにデメリットが大きくなってしまったからではないだろうか。

 コンプライアンスが厳しくなり、SNSが発達し誰もが感想や意見を発表できるこの令和において、炎上の危険性はメディアに出る全員が持っている。

 大御所ほど影響力が強いので、例えばちょっと強い言葉を使ったり、取れ高を狙って予想を裏切る行動をしたりすると、その行動や発言がSNSでの過剰な批判や誹謗中傷につながってしまうのだ。

 例を挙げるとチョコレートプラネットの松尾さんが「素人はSNSをやるな」と発言して炎上し、謝罪にまで追い込まれた。チョコプラさんは好感度が高い芸人として有名だったが、いまではかなりアンチがついてしまった印象だ。

 おそらく大御所の方たちは、いまや大きなヒットを狙うより、必ず出塁して点につなげるという役割を担うというマインドなのだと思う。昭和のテレビは大御所ほど好き勝手できていた印象だが、令和は大御所ほど好きなことができない時代になっているのだ。

若手でも“食えるようになった”芸人たち

 では、「ガツガツする」は若手ならではの特権となったのだろうか。地下お笑い界では、今でも売れたくて堪らず、ギラギラしている若手であふれている。でも僕がお笑いを始めた一昔前と比べて、その熱量はかなり変化してきた。

 十数年前と比べて、YouTubeやTik Tokなどのプラットフォームで活躍し、その収益で生活できている若手が爆発的に増加。好きな事や得意な事だけを発信して、「食えている」どころか大金を稼ぐ若手も珍しくはなくなった。

 コロナ禍を経てライブの配信も当たり前になり、その収益の恩恵を受けている者も大勢いる。

「向いていない仕事はしない」スタンス

 ほんの何年か前まではテレビで売れるしか稼ぐ手段がなかったが、今ではテレビに一度も出たことがなくてもSNS上で大金を手にする芸人がごろごろと生まれるようになった。

 テレビ以外で食える手段がでてきたことで、若手は全員ガツガツしているわけではなくなってしまった。「例えテレビに出れたとしても、自分がやりたくない事や辛い仕事は避けたい」と後輩たちが愚痴るのも耳にしたことがある。

 このような「向いていない仕事はしない」という若手のスタンスの変化には、やはり若手芸人のカリスマである令和ロマンの影響もあると思う。

 令和ロマンはSNSで売れたわけではないが、M-1優勝後もテレビよりYouTubeに力を入れており、自分たちが楽しい企画を発信することで影響力を高めていた。くるま自身が「テレビに出ない」と発言したこともある。

 やはり若手の中では令和ロマンを神聖視している者も多いので、このスタンスに傾倒していくのだろう。時代というのは移り変わっていくのだ。

ギラギラしたガッツも芸人の魅力

 ただやっぱり現在のバラエティ番組やお笑いシーンを見ていると、依然「ガツガツ感がある若手」の方が大活躍する可能性が高いのは事実だ。スマートにSNSで売れていくスタイルもメジャーになってきたが、それでもギラギラとしてガッツを見せてくれるのも芸人の魅力だと思う。

 お笑い番組が大好きな一人としては、炎上や批判を潜り抜けて、新旧のスターがテレビやそのほかのメディアでも躍動するのを楽しみにしている。

(帽子田/芸人、ライター)