和田アキ子が司会を務める「アッコにおまかせ!」の来年3月いっぱいでの終了が先月、発表された。昨年から終了を検討されていたなか、番組が今年40周年を迎えたタイミングを待っての決断だったという。
思い出すのは和田が「紅白」に落選した2016年。出場すればキリのいい40回目の出場だったが、かなわなかった。和田は「もう紅白は見ない」と、ダダっ子のように自身のラジオで悔しさを爆発させていた。TBSはこのことを学び(?)40周年の節目を選んだと思う。冠番組を長きにわたり続けてきた和田の功績に対し最大限の配慮だったのかもしれない。
「歌手の夢」ともいわれた紅白も近年は自ら辞退する人も増え、出場にこだわりを持つ歌手は少ない。「大晦日にNHKが放送する大型歌番組」というぐらいの位置づけになった。
紅白に関する報道も減少傾向だが、今後は和田も務めた経験のある“トリ”を務める歌手の名が話題となるはずだ。
トリといえば北島三郎や五木ひろし、石川さゆりら演歌歌手が主流だった。最近は演歌歌手の出場が減り、2020年以降、福山雅治とMISIAが5年連続で務めてきた。今年も2人が有力ともいわれるが、トリはじっくり聴かせる今年の歌い収め。頼れるのはベテラン歌手。
今年の出場者で最年長は77歳の布施明と76歳の高橋真梨子の2人。デビュー60周年の節目を迎えた布施は実に16年ぶりの出場。高橋は昨年に続き7回目。圧倒的な歌唱力を持つ布施と高橋。トリにもっともふさわしいと思うが──。
ここで注目したいのは高橋だ。普段ほとんどテレビに出ず、「歌の伝道師」としてコンサート中心に活動。紅白も「スケジュールが空いていれば出る」と出演に重きを置いていない。くだんの和田とは好対照な歌手だが、2人のここまでの足跡はよく似ている。
福岡生まれの高橋は中学時代からナイトクラブで歌い、大手芸能プロにスカウトされ上京。アイドル路線を嫌いアーティストとして17歳でプロ歌手になった。ライブハウスなどでの活動を経て“ペドロ&カプリシャス”のボーカルで世間に認知された。ソロになってからも「桃色吐息」などヒット曲を連発。直立不動の姿勢でマイクの前に立ち、両手を前で合わせ淡々と歌い上げる歌唱スタイルは今も変わらず、多くのファンを魅了している。
1歳年下でデビューも2年後だった和田も15歳で大阪のジャズ喫茶で歌っていた。大手芸能プロにスカウトされ18歳でデビュー。
「和製リズム・アンド・ブルースの女王」と呼ばれ、圧倒的な歌唱力で歌謡界に旋風を巻き起こした。「あの鐘を鳴らすのはあなた」で日本レコード大賞最優秀歌唱賞を受賞するなどヒット曲を出し歌手の地位を確立。将来、歌謡界を背負って立つと期待されたが、ここから先が分かれ道になった。
「若い歌手は可能性を求めてタレント、女優なども並行してやらせて可能性を見定める」時代だったこともあり、和田は「うわさのチャンネル」などバラエティーに進出。「ゴッド姉ちゃん」と呼ばれタレントの才能が開花。やがてタレント業に重心を移し人気を博した。歌手の実績は次第に人々の脳裏から薄れ、若者の中には「歌手だったんだ」と驚く人もいた。
タレントは番組に呼ばれなくなれば、仕事はなくなる。歌手は声が出る限り歌い続けることができる。
和田と高橋。それぞれの生き方は後輩たちの指針になるだろう。
(ジャーナリスト・二田一比古)