流行中のMBTIは「ニセモノ」だった!?人間関係を汚染する「科学的根拠なき性格診断ブーム」の正体

その診断、本当に『MBTI』ですか?

SNSのプロフィール欄に踊る「INFP(仲介者型)」や「ENTJ(指揮官型)」の4文字。今、若者を中心に爆発的ブームとなっている“MBTI診断”だが、ネットで手軽に楽しめるその診断が、実は「ニセモノ」であるという事実は、意外と知られていない。 

「ネットで広まっている無料診断は、本来のMBTIとは別物です」そう警鐘を鳴らすのは早稲田大学文学学術院教授の心理学者、小塩真司(おしお・あつし)氏だ。 

かつての「血液型性格診断」のように、単なるエンタメの枠を超え、就活や人間関係まで“汚染”し始めた診断ブーム。その裏に潜む、笑えないリスクと心理学的見地からの「真実」に迫る。 

無料のMBTI診断は科学的根拠なし!?  

いくつかの質問項目に答えると「INFP(仲介者型)」や「ENTJ(指揮官型)」など、アルファベット4文字からなる16タイプのパターンに分類されるという “MBTI(?)診断”(※?は編注)。

管理者型や建築家型など、それぞれのタイプ別に特性を持ち、個人のパーソナリティを深く知ることができると話題となり、SNSなどの自身のプロフィールにこのアルファベット4文字を記載してパーソナリティを開示したり、友人や恋人にタイプを尋ねたりと、SNS時代にあってその広がりを見せている。

最近ではこのブームに乗って32のタイプ、さらには64のタイプに分類される診断も登場し、ますます広がりを見せていきそうだ。しかし……、

「本来のMBTIは、1940年代にアメリカで開発が始まり、’50年代から’60年代に確立した、性格を理解するための一種の道具であり、特に企業の研修などでよく使用される、自己理解のための道具のひとつです。

今、日本で流行っているMBTIを模した診断とはまったくの別物です。ですから、ネットで簡単にできるものはMBTIではない、まったく別物だと思っていただいたほうがいいですね」(小塩教授・以下同)

本来のMBTIは登録商標であり、日本では日本MBTI協会が商標権を持っている。協会のWEBサイトなどによると、MBTIは検査に基づいて専門家によるフィードバックがあり、その上で研修を受けて、自己理解や他者への理解を促すというもの。

一方、流行中のものは独自の診断結果を開示するのみだ。厳密にはMBTIをうたってはいないものの、アルファベットによるタイプ分けなど、明らかにMBTIを模している点が多く見られ、専門知識のない人が錯誤するのも当然といえる。

「このブームで、日本で一番のとばっちりを受けているのは日本MBTI協会さんだと思います。’00年ごろから約四半世紀にわたって地道に活動をしてきていたところでしたから。 

ただ、著作権の問題を除き、前提として『エンターテインメントだからいいじゃないか』『個人の自由じゃないか』と言われればそれまでです。この診断を楽しむのは個人の自由ですし、私もそれを否定するものではありませんが、それでもやはり危惧すべき点があると考えています。それは、この診断によって個人に対する思い込みやレッテル貼り、さらには結果によって個人が傷つくことも往々にしてあるという点です」 

「A型の人は神経質」「B型の人はわがまま」……“血液型性格診断”の悪夢が再び!?

診断結果が招く、笑えない「差別と分断」

「振り返ってみれば“血液型性格診断”がまさにそうで『A型の人は神経質』『B型の人はわがまま』と、血液型でその人の性格や人となりを判断しようとすることが、つい最近まで行われていました。 

血液型性格診断は1970年代に登場し、近年は言われることが少なくなりました。下火になるまで約50年かかっています。この流れをみると、血液型がMBTI(?)に置き換わっただけだという見方をしています」 

小塩教授が危惧しているのが「INTPとENFJは相性が悪い」という判断や「ESFJはこういう人だから」と性格を決めつけられかねないことと、それによって傷つく人がいるということだ。

実際にネット上でも「Eは陽キャ、Iは陰キャ」という書き込みやそのような印象を受けるような受け止め方も多く見られる。このようなタイプによる先入観によって他者を断ずる、排斥するなど差別につながりかねないと警鐘を鳴らす。

「B型の人のなかには『(血液型性格診断の影響で)B型で今まであまりよく言われたことがない』と言う人もいます。 

根拠のないことで、苦痛を抱きながら生活を送る必要はないはずですが、こういった診断や占いは“優れている”“劣っている”といったスケープゴートを作る傾向があります。また、優劣の表現が流行する一因にもなります。 

ひいては、それが差別や排除、そして戦争の前提になってくるということは心理学者としては言っておかなくてはいけないと感じています」 

「エンタメ」では済まされないリスク

人が持つ先入観の影響はとても大きく、その第一印象と違う本来の人物像に迫るのにはとても時間がかかるもの。

本来は会話などのコミュニケーションによって得られる人物像が、INFP、ENTJなどの16パターンで区切られてしまうことで、本来のコミュニケーションを阻害してしまうことになりかねない。

「学生たちの間ではサークルの勧誘の際、また就職活動や企業の説明会においても『うちのMBTIの比率はこれぐらいで~』という話が出てきているといいます。エンターテインメント的に楽しむ分にはよいですが、それを就活や恋愛、結婚、友人関係など、人生の大事な場面で妄信するのはおすすめしません。 

また、この診断が営利目的であること、情報商材であること、収集されたデータがどのように利用されるかは不明だということに対して無自覚だという点についても憂慮しています」

すでに血液型性格診断に取って代わり、日本での性格診断のトップの座につこうとしているMBTIらしき診断。もちろん、多くの人はそれによる差別や排除を意識せず、エンターテインメントとして楽しんでいるはずだ。

ただ、それが今よりもさらに一般化して、就職や結婚など、人生のさまざまな場面で利用されていった場合、小塩教授が危惧する通り、差別や排除になりかねない。血液型性格診断で多くの人が受けてきたレッテル貼りが繰り返されぬよう、利用は慎重にしたいところだが、それはINFP(仲介者型)の記者による杞憂だろうか。

▼小塩真司(おしお・あつし) 1972年生まれ。名古屋大学教育学部卒業、同大学院教育学研究博士課程前期課程・後期課程修了。博士(教育心理学)。中部大学人文学部講師、助教授、准教授を経て、’12年4月より早稲田大学文学学術院准教授、’14年4月より教授。専門は発達心理学、パーソナリティ心理学。

「エンターテインメント的に楽しむ分にはよいですが、それを就活や恋愛、結婚、友人関係など、人生の大事な場面で妄信するのはおすすめしません」と小塩教授
最近のMBTI(?)診断に疑問を呈している小塩教授の近著『性格診断ブームを問う 心理学からの警鐘』(岩波ブックレット)

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