”違法薬物の売人”まで…イメージと真逆な役を演じる北川景子の燃え上がる「マグマの正体」

報知映画賞で主演女優賞を獲得した北川景子。映画『ナイトフラワー』で共演した森田望智(右)と

『ばけばけ』でまさかの役を

現在放送されている朝ドラ『ばけばけ』(NHK)では物乞い役。11月28日から公開された主演映画『ナイトフラワー』では違法薬物の売人役を演じて新境地を切り開いた俳優・北川景子(39)。12月15日に表彰式が行われた「報知映画賞」で『ELLE CINEMA AWARDS 2025』のエル ベストアクトレス賞に続き主演女優賞に輝くなど、今期の“映画賞”レースの台風の目になる可能性は十分にある。

これまで、あまり賞レースに縁がなかった彼女に一体、何が起きているのか。

『ばけばけ』は明治時代の島根県・松江が舞台。小泉八雲の妻・セツをモデルとしたトキ(髙石あかり、23)の目を通して、江戸から明治へと移り変わる時代を生き抜いた夫婦の物語を描く波乱万丈伝だ。

北川演じるトキの生みの親・おタエ様は、家老の家柄ながら夫・傳(堤真一、61)が手掛ける織物事業が失敗。お嬢育ちの美しく凛々しいおタエ様が没落して“物乞い”にまで身を落とす、朝ドラ史上稀に見る展開にSNSにも衝撃が走っている。北川自身、この役についてどう捉えているのか。

12月12日放送『あさイチ』(NHK)のプレミアムトークに出演した北川は、

〈たぶんタエが独り身であれば、もう死んでしまっていると思う。自分で、自ら。だけれども三之丞(板垣李光人、23)という息子が手元に残っていまして。三之丞をしっかり、ひとりで立てる人間にしなくてはならないという親としての責任みたいなものが、自分を突き動かしているというか。雨清水タエは一度死んだのだという気持ちでこのシーンをやりましたね〉

と明かしている。

物乞いの場面を撮影するために、北川は髪を乱し、顔や着物を汚して撮影に臨んだという。

「ただそれだとリアルすぎて朝から観るには衝撃が強すぎる。そこで制作スタッフと相談の上、ギリギリのラインを攻めたと話していました。北川さんは今回が朝ドラ初出演。強烈な爪痕を残しました」(制作会社ディレクター)

北川は高校在学中に地元・神戸でスカウトされ、’03年に「ミスSEVENTEEN」でモデルデビュー。この年に放送されたドラマ『美少女戦士セーラームーン』(TBS系)で女優としてのキャリアをスタートさせた。

しかしその後、俳優としてはなかなか芽が出ず、オーディションを受けては落ちる日々を送っていた。

そんな北川にチャンスが訪れたのが’06年。巨匠・森田芳光監督の目に留まり、映画『間宮兄弟』のオーディションに合格。映画初出演を果たすと、’08年『太陽と海の教室』、‛09年『ブザー・ビート〜崖っぷちのヒーロー』、’10年『月の恋人〜Moon Lovers〜』と3年連続フジテレビの“月9”に出演し、女優として確固たる地位を築いた。

「人気は得ましたが、クールで仕事はできるが恋愛下手という完全無欠の“バリキャリ”役ばかり。クールビューティーなイメージの強い北川にとって“ハマり役”とはいえ、本人は『幅広い役を演じるには、どうしたらいいのか』と、真剣に悩んでいました。北川さんは絵に描いたような仕事人間。“この仕事で生きていく”という思いが、当時は強すぎたのかもしれませんね」(制作会社プロデューサー)

悩める北川に、思わぬ転機が訪れる。

赤いドレスが美しい北川景子

意外な一面を引き出した『家売るオンナ』

’16年、歌手でタレントのDAIGO(47)と結婚。すると北川の俳優人生の視界が突然、ひらける。

同年放送された主演ドラマ『家売るオンナ』(日本テレビ系)で、やり手不動産屋役・三軒家万智をコミカルに演じて大ブレイク。高視聴率に支えられ、翌年スペシャルドラマ『帰ってきた家売るオンナ』、’19年には第2シリーズ『家売るオンナの逆襲』と続けざまにヒットを飛ばし、“高視聴率女優”の仲間入りを果たした。

’18年には『西郷どん』で、NHK大河ドラマ初出演。天璋院篤姫役で注目を集めると、自らの出産を機会に、母親役をはじめとした幅広い役のオファーが寄せられるようになった。

「今年の春ドラマ『あなたを奪ったその日から』(フジテレビ系)では、娘を食品事故で亡くした母親を熱演しました。娘を死に至らしめた総菜店の社長の娘を連れ去り、やがてその娘が真実を知り激しく動揺するも『私、お母さんの子でいい』と北川さんにすがる――そんな娘を本来の家に帰らせるため、本心とは裏腹な言葉で傷つけ、突き放す姿が多くの視聴者の涙を誘いました」(前出・プロデューサー)

そして、さらなる挑戦となったのが、現在公開中の映画『ナイトフラワー』である。’23年にドラマ『落日』(WOWOW)でもタッグを組んだ内田英治監督は北川に対して「まだ隠し持ったままの“潜在能力”があるはずだ」との思いを抱き、この難しい役どころをオファーしたという。

「脚本を一読した北川は、自分のことを後回しにしてでも子どもたちのために必死で生きる主人公に魅せられました。『ここまで追い込まれてしまったら、犯罪に手を染めてまでも子どもを守りたいという“母親の愛”は理解できます』と監督たちに語り、出演を快諾。鮮やかなブルーに染めた髪を振り乱しながら、ほぼスッピンでネイティブな関西弁をまくし立てる主人公・夏希役に挑みました」(前出・ディレクター)

北川演じる永島夏希は、とてつもなくタフな役どころだ。

「破棄された餃子弁当を物色したかと思えば、自分の知らないところで子どもたちがバイオリンを弾いて小遣いを稼いでいる姿を目撃して涙を流す。ドラッグの売人の真似事をしてボコボコにされるシーンでは、リアルにひたすら殴られる。その姿には、今までの北川景子を捨て挑む、鬼気迫る姿がありました」(前出・ディレクター)

子どもたちのために必死で生きる母親の善悪の境界線は、一体どこにあるのか。モラルや正論を飛び越えた一人の母親のたくましい生き様が刻み込まれた今作こそ、2児の母となった北川自身の中に眠るマグマの正体ではなかったか。

夜の街で暗躍するドラッグの元締・サトウ(渋谷龍太 38)が呟いた、

〈自分の子どものために、人を不幸にしてまで必死に生きようとしてんだろ?  そんな立派な母ちゃん、そうそういねえよな〉

というセリフ。今も思い出すと胸に沁みる。

燃え上がるマグマのように、奥底から湧き上がるパッションに目覚めた俳優・北川景子。彼女が映画界を席巻する日も近い――。