「突撃してきた」…車が対向車線を飛び出し「1歳の幼児が死亡」遺族が語る事故の瞬間と「衝撃画像」

1歳で命を落とした煌瑛ちゃん(遺族提供)

「私の車が、対向車線に飛び出したことは間違いありません。ただ、事故の少し前からその日の夕方まで、記憶がありません……」

11月12日、高知地裁(稲田康史裁判長)で開かれた注目の刑事裁判。自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷)に問われている高知市の無職・竹崎寿洋被告(61)は、初公判の冒頭、裁判官に向かってそう主張した。

本件事故がどのような状況で起こったかを説明する前に、筆者が遺族から提供してもらった動画について説明したい。被害車両のドライブレコーダーに記録されていた映像を基にした動画だ。竹崎被告の車が、対向車線をはみ出した1~2秒後に被害車両に激突。チャイルドシートを正しく装着していたにもかかわらず、わずか1歳で命を奪われた神農煌瑛(かみの・こうえい)ちゃんの姿などを約1分間にまとめたものだ。

夫が運転する車の助手席でこの事故に遭い、自らも内臓損傷や頸椎骨折などの重傷を負った被害者遺族の神農彩乃さん(39)は、その瞬間をこう振り返る。

「対向車は、『はみ出してきた』のではなく、『突撃してきた』と表現できるほどの急ハンドルで向かってきました。避けることは不可能でした……」

「着替える時間がもったいない」

大破した神農さんの車

事故は2024年9月21日午後0時50分ごろ、高知県香南市の高知東部自動車道で発生した。

前日から夫の諭哉(ゆうさい)さん(34)が運転するマイカー(トヨタ・エスクァイア)で高知を訪れていた神農さん一家は、この日、高知市内のひろめ市場で昼食をとったあと、大阪の自宅に戻る予定で高知自動車道の下り車線を走行していた。後部座席では、ジュニアシートに座る6歳の長女と、チャイルドシートを装着した幼児・煌瑛ちゃんが寝息を立てていた。

しかし、竹崎被告の信じがたい行為は、そんな家族の穏やかな時間を一瞬にして断ち切った。大きく破損した車の損傷が、その衝撃の大きさを物語っている(関連画像参照)。

煌瑛ちゃんは外傷性ショックで事故後、間もなく死亡。彩乃さんと諭哉さんは重傷。長女が軽傷ですんだのは奇跡だった。

検察の冒頭陳述によると、事故当日、知人とゴルフを楽しんだ竹崎被告は、愛車のトヨタ・クラウンクロスオーバーを運転して飲食店に向かおうと、高知自動車道を走行していた。ところがその途中、革靴からサンダルに履き替えたいと思い立ち、運転中にもかかわらずシートベルトを外して革靴を脱いだ。そして、前方左右を見ずに助手席に身体を傾け、足元に置いてあったサンダルをとろうとしたその瞬間、ハンドルが急に右に切れ、車は突然対向車線に飛び出したというのだ。

検察によれば、竹崎被告は取り調べで「オートパイロット機能(ドライバーの負荷を軽減する運転の自動化機能)を使えば安全に走ってくれると思った」と供述していた。また、「それまで靴は履き替えたことがなかったが、ズボンを穿き替えたことはあった」とも語っている。なぜ、走りながらわざわざ着替えをする必要があったのか、にわかに理解しがたいが「着替える時間がもったいないから」というのがその理由だという。

日本は「レベル1」と「レベル2」のみ

大破した神農さんの車内の様子

検察は、被告が事故を起こし車から降りたときに、靴や靴下を履いていなかったことを指摘。「事故時の記憶がない」という被告に対し、客観的な証拠から厳しい追及をする模様だ。

さらに法廷では、加害者の車に搭載されたEDR(イベントデータレコーダー)の解析結果が詳細に示された。この装置は、航空機でいうフライトレコーダーのようなもので、衝突時の速度やブレーキの使用状況、エンジンの回転数など、事故前後の車の挙動がこまかく記録されているのだが、そのデータによって、事故の直前には運転支援装置自体が解除されていたことも明らかにされた。

そもそも、クラウンに搭載されている運転支援装置は「安全な自動運転」ではない。国土交通省によると、レベルは1から5まであるが、現在、日本で一般ユーザー向けに販売されているのは、「レベル1」と「レベル2」のみ。レベル2までは、たとえ運転支援装置がついていても、「ドライバーの監視」が必須とされており、両手をハンドルから離して走行することは許されていない。にもかかわらず、運転支援装置を「自動運転」だと誤認しているドライバーがいるとすれば、恐ろしい。

初公判終了後に開かれた記者会見で、我が子を理不尽な行為で奪われた悔しさを語った彩乃さんは、声を震わせながらこう訴えた。

「運転支援システムというのは、本来、事故を減らしたり、ドライバーの負担を軽くしたりするために開発された安全のための技術です。被告人はそれを理解していなかったわけではなく、むしろカタログなみに詳しく知っていたことがわかっています。この事故は、運転支援システムに対する過信ではなく、明らかに悪用です」

自動車専用道路を運転中に、「靴を履き替える」という信じがたい行為をしていた竹崎被告。法廷で明らかになった供述も、とても納得できるものではない。

しかし、初公判で明らかになった事実はそれだけではなかった。【後編】では、遺族にさらなるショックを与えた被告の疑惑の行動についてレポートする。

後編:「運転中に靴を履き替え」「発泡酒も飲んで」…対向車激突で1歳長男死亡「遺族が怒り」被告の噴飯言動

生前の煌瑛ちゃん
対向車からはみ出してきた被告の車(神農さんの車のドライブレコーダーから)