「運転中に靴を履き替えようとしていた……、その事実だけでも驚きましたが、発泡酒も飲んでいたとは……。もう、到底、理解ができないです」
11月12日、高知県庁で記者会見を開いた神農諭哉（かみの・ゆうさい）さん（34）は、怒りを込めながら語った。2024年９月、交通事故で１歳になったばかりの長男・煌瑛（こうえい）ちゃんの命を正面衝突事故で奪われ、自らも重傷を負った被害者遺族だ。
【前編：「突撃してきた」…車が対向車線を飛び出し「１歳の幼児が死亡」遺族が語る事故の瞬間と「衝撃画像」】
この日、高知地裁（稲田康史裁判長）で午後３時45分から、自動車運転死傷行為処罰法違反（過失運転致死傷）に問われている高知市の無職・竹崎寿洋被告（61）の初公判が開かれた。
事故は2024年９月21日午後０時50分ごろ、高知県香南市の高知東部自動車道で発生した。愛車（トヨタ・クラウンクロスオーバー）でゴルフに出かけた竹崎被告は、その帰りに飲食店へ向かう途中、センターラインを越えて神農さん一家の車に正面衝突。煌瑛ちゃんを死亡させ、両親に重傷を負わせたのだ。車内では靴を履き替えようとしていたとされる。
初公判では竹崎被告は、
「私の車が、対向車線に飛び出したことは間違いありません。ただ、事故の少し前からその日の夕方まで、記憶がありません……」
と述べていたが、検察は被告が自車の運転支援装置を過信し、運転中にハンドルから手を離して靴を履き替えようとしていたこと、そして、ハンドル操作を誤ったことを、数々の証拠から指摘した。
「ひと口かふた口飲んで捨てました」
しかし、遺族にショックを与えた被告の噴飯言動はそれだけではなかった。
この日の法廷では、被告が自車の中にクーラーボックスを積み込み、その中に酒を入れてゴルフ場に持参していたことが明らかになったのだ。
また被告は、
「ゴルフ場で発泡酒を飲んだが、ぬるくなっていたので、ひと口かふた口飲んで捨てました」
と供述していたこともわかった。
ちなみに事故直後、警察が被告に対して飲酒の検知をしたか否かは定かではないが、現時点で呼気アルコール濃度などが示された証拠は出ていないという。真昼の事故だったため、酒気帯び運転の疑いを持たなかったのだとしたら問題だが、いずれにせよ、自ら車を運転してゴルフ場に向かっているにもかかわらず、現地で飲むための酒類を持参するという行為は論外だ。
神農さん夫妻の記者会見に同席した被害者支援弁護人の髙橋正人弁護士は、厳しい口調でこう指摘した。
「今日の裁判で被告は、飲酒運転をしていたことも認めていました。ひと口、ふた口であっても、飲酒運転です。しかも、ひと口、ふた口で終わるわけがなく、たくさん飲んだんじゃないか……。私たちとしては、あの言葉を信じておりません」
諭哉さんもこう続けた。
「『ながら運転』はするわ、『飲酒運転』はするわ、正直言って、もう、とんでもない加害者だと思っています。僕の今の気持ちを率直に、ありのままに言うなら、なぜこんな奴に息子の命を奪われたのか、という思いと、息子を守ってやることができなかった自分に対する、ものすごく悔しい気持ちです」
「一度も謝りに来ていません」
亡くなった煌瑛ちゃんは１歳の誕生日を迎えたばかりだった。高知への家族旅行には、祖母からの誕生日プレゼントにもらった小さなスニーカーを持参していたが、結局、その靴は一度も履くことなく、新品のまま棺の中に納められたのだという。
母親の彩乃さんは、ときおり涙を拭いながらこう語った。
「私は初公判で初めて竹崎被告と対面したのですが、正直がっかりです。運転中に靴を履き替えるとか、クーラーボックスに発泡酒を入れていたとか、本当に信じられません。
こんなふざけた運転で私から大切な子どもを奪っておいて、被告は１年以上たった今も、一度も謝りに来ていません。事故後も普段の生活を続け、余裕がありそうに見えました。それだけに、刑事裁判ではしっかりと真実を追及して、納得のできる結果を勝ち取らなければならないと思っています」
第２回公判は、2026年２月４日、高知地裁で行われる。なぜ、車の中で靴を履き替えようとしたのか、それが危険な行為だとは思わなかったのか。また、ゴルフ場での飲酒は常態化していたのか……。
竹崎被告に対する尋問が注目される。
