「ホットドッグ」(1990年/TBS系)
平成になって間もない1990年の春。爆発寸前のバブルに、世は♪ポンポコリン~と踊っていた。テレビは新番組が始まるたびに記者発表会を開き、特にGP帯の連続ドラマは番組ごとに一流ホテルで会見+立食パーティー。業界末端のテレビ誌記者は、会見よりも豪華な料理やお土産が目当てだったけど。
TBSの場合、赤プリかニューオータニ。その日は柳葉敏郎(当時29)主演の「ホットドッグ」の会見に向かい、一ツ木通りを赤坂見附に向かって歩いていた。少し前を業界人らしき数人、たぶん行き先は同じ。溜池の信号待ちでその一団と並んだ時、ベージュのスプリングコートを羽織った美女を見た。数十分後、その女性は会見の壇上にいた。主演の柳葉敏郎、ヒロインの仙道敦子、歌番組の衰退とともに勢いを失った光GENJIの大沢樹生……と続いて、マイクが彼女に回った。
「丸山季実子役の鈴木京香です」
きれいだけどちょっと地味、清楚だけどどこかアカ抜けない雰囲気。現役女子大生なのに全然キャピッとしてない彼女は、連ドラのレギュラー出演は確かこれが初だった。それがわずか1年後、NHK朝ドラでリメークされた名作で“真知子巻き”になるとは! お調子者のテキ屋が数年後にお堅い警察官僚になるより驚きだ。
「ホットドッグ」は東京の下町を舞台に、思いがけず4人の子供と暮らすことになったテキ屋のお話。金八シリーズの柳井満Pによる80年後半のヒットシリーズ「親子ジグザグ」や「親子ウォーズ」などの流れで、プロデューサーは“柳井組”の大岡進さんということで、いわゆる笑って泣けるホームドラマだ。柳井組には欠かせない石倉三郎や岡本麗も出ていたし。そして子役は高橋かおり、伊崎充則、えなりかずきという、当時の“TBS子役オールスターズ”。
「世界で一番君が好き!」や「恋のパラダイス」などCX(当時は業界チックにフジテレビをこう呼ぶのが流行していた)の月9や木10がこの年の視聴率ランキングで上位を占める中、「ホットドッグ」の数字は圏外。でも続編が「テキ屋の信ちゃん」としてシリーズ化もされたぐらいだから、柳葉の代表作といってもよさそうなのに、今ではあまり語られない。ジョニーと呼ばれていたのも、末期の「欽ドン」で“良川先生”だったのも、全部“室井さん”に上書きされてしまった。
90年の春は、あちこちで「おどるポンポコリン」が聞こえていた。そしてイカ天出身の「たま」が「さよなら人類」でメジャーデビュー。この年を代表するヒット曲が、CXとTBSの番組から生まれたのだった。あっ、ドラマと関係ないか。
(テレビコラムニスト・亀井徳明)