粗品という劇薬を使ったTHE W
「女芸人No.1決定戦 THE W」(日本テレビ)が12月13日に開催。審査員を務める霜降り明星・粗品の審査コメントが賛否を呼んでいる。
かつて年間100本以上のライブに出演し、自身もライブ主催者の経験もあるという現役の芸人・帽子田は「粗品という劇薬をTHE Wが使った」と語る。そこで今回は「粗品とTHE W」について考察する。
【関連記事】審査員・粗品とM-1審査員の決定的な違いは? 忖度しない芸人ゆえの「ブレない目線」と「ムカつかれる覚悟」
THE Wで一番「得をした」のは誰なのか?
THE Wがいつになく賑わっている。「一番面白い女芸人を決める」というコンセプトでM-1やキングオブコントと差別化を図ってはいるが、両賞レースに比べると規模も小さいので盛り上がりに欠けることが多いのが「W」の印象だ。
だが、今年に限ってはキングオブコントをしのぐほど話題になっている。皆様ご存じの通りだと思うが、今年から審査員として参加した粗品の辛口コメントのせいである。
粗品はytvの審査員の際も辛口コメントが話題になったが、Wの方が言葉を選ばず辛辣だった。
例えば芸歴1年目のパンツ万博に「1秒も面白くなかった」と言い放ったり、人気絶頂のエルフを「普段質の悪い客の前でしかネタを試せてない」「稚拙」とバッサリ切り捨て、さすがに会場内も微妙に気まずい雰囲気になっていた。
粗品のコメントや言動はW終了後も大きな議論に。もちろん芸人界でもWの話題で持ちきりだった。
振り返ってみるとどの出場者よりも大きな話題を獲得したようで、まるで「THE W」というより「粗品の大会」だった。「粗品ひとりが得した」ようにも見えてしまう。
そこで今回はTHE Wで結局誰が一番得したのか、について考えていきたい。
賛否両論、粗品は得をしたのか。
W放送後、SNS上では「粗品が言いたいことを全部言ってくれた」「粗品が面白くて初めてWを全て見た」と絶賛するコメントが多数。
一方、「客ありきのお笑いなのに、客を下げる発言が多くて気分が悪い」「粗品のコメントがノイズになっていて集中できない」「何様なの?」と否定的なコメントも少なくない。
芸人界でもトップレベルの信者数と発言力を持つ粗品にしては、かなりの批判コメントであふれかえっている。Xだけでいうと、Wに言及するコメントの半分程度は否定的なものだった。
その原因は明らかに客批判のせいで、大爆笑が起こると「この程度で笑う日テレの客は質が悪い」と強く言っていたことが反感を買っているようだ。
笑い飯・哲夫との論争で「ちょい損」
もともとWという大会に反感を持つ固定層も多いので、世論は粗品側に圧倒的に傾くかと思ったが、どうやらそういう訳でもなさそうだ。
さらに、同じく審査員を務めた笑い飯・哲夫が「粗品のせいでコメントが全然回ってこなかった。次もそうなら、審査員を受けない」という旨をラジオで表明し、粗品はYouTubeでこれに猛反論。
「哲夫さんに需要がなかったんでしょ」「大したことない審査してましたよ」「ダサすぎてしんどい」と強い言葉で非難した。
粗品は「Wを救う」と熱量高く挑んだようだが、かなり批判され、尊敬する先輩とも争う羽目になってしまった。これらの点を踏まえると、「粗品だけが得をした」という訳では全くないだろう。どちらかというと「ちょい損」という感じがする。
エルフ荒川ら、ほか出場者はどうか?
出場した女芸人や審査員として参加した芸人はどうだろうか。これまでのWより注目が集まったとはいえ、「得をした」とも言えないだろう。
粗品にぼろくそに言われてしまったせいで、今回初めてテレビに出るような若手の芸人たちの名前を検索するとサジェストで「つまらない」「おもしろくない」と並ぶようになってしまった。このような印象がつくのは、これからの芸人生活でハンデとなる気がする。
粗品が大会中で指摘したポイント自体はおおむね同意だし正しいのだが、それを錦の御旗にした人たちが彼女たちを必要以上に叩いているのもよく見る。これに関しては、率直に胸糞悪い。
粗品も自分の影響力を加味して、誹謗中傷を扇動するような連中に釘を刺すべきだったのでは?と思う。
また、エルフも粗品の辛口コメントに「Wから出て行ってください!」とコメントしたことで、粗品のファンに叩かれてしまっている。
このコメント自体は悪くないと思うしバラエティを重視した答えだったと思うが、粗品がそれに関して受け身を取らなかったことでケンカのように見えていた。エルフ・荒川も大会直後の反省会で大号泣していて、痛々しかった。
とはいえ、今大会に出場したことで若手たちの名は上がったので、これを逆手に取った大躍進に期待したい。
さらば青春の光・森田ら審査員はどうか?
他の審査員に至っては、「得した」どころか「損をした」人が多かっただろう。先にも述べたが粗品の独壇場に反論した哲夫はネット上でかなり叩かれている。
この件に関しては、粗品に賛同する声が圧倒的に多く、「確かに哲夫がダサい」「去年のM-1の時の審査もひどかったから粗品が正解」などと支持されている。哲夫さんはM-1の審査員も務めているので、やりにくいタイミングで攻撃されてしまった。
実際、哲夫さんはM-1のオープニングの際に粗品との件をいじられていたが、本人は「主役は出場者なので」と深くは言及しなかった。その事自体が、「賞レースで審査員が目立つのはおかしいぞ」と粗品に言い返しているようだった。
ストッパー役として隣に配置されたさらば青春の光・森田は、長文コメントで時間を使う粗品に「もう黙ってくれ!」とツッコんだところ、「スカした」とすごまれ、これもネット上で悪い意味で話題に。
芸人は「スカす」=「ダサい」という生き物なので、全国ネットでそのレッテルを後輩から貼られるのは、生きた心地がしない。
そのほか粗品と絡まなかった審査員たちは影が薄く、空気のような存在になってしまっていた。これでは得も損もないだろう。
本当に得をしたのは「日テレ」
では、「Wは全員損した大会だったのか」と言われるとそうでもない。実はとても得をしている存在がいる。それは「日本テレビ」だ。
冒頭でも述べた通り、Wは他賞レースと比べると知名度や人気も低い。さらに、大会としての歴史も浅いからか、運営の粗を指摘されて毎年批判されていた。また賞レースには珍しく「Wアンチ」という人もいる。
日本テレビは今年から「Wインパクト」という肝いりの賞レースも開催しており、Wは今年で終了するという噂もささやかれていた。窮地に追い込まれていたWがこんなに話題になるというのは、嬉しい悲鳴を上げたのではないだろうか。
良くも悪くも話題になることが重要なのが芸能界だ。粗品という劇薬でWが延命したとすれば、日本テレビは得をしたということになるだろう。なんせ賞レースは儲かる。
もし来年もWが開催されるのであれば、みんなが得をする大会であってほしいと願うばかりだ。
(帽子田/芸人、ライター)