【独占告白】井岡一翔 ずっと青春「5階級挑戦を決めた自分に感謝したい」肉迫撮&ロングインタビュー

’11年、デビュー7戦目での世界戦が決まった瞬間、「何を根拠に俺はチャンピオンになると言ってきたのか」と自問自答し、恐怖に襲われた。「そのときもいまも根拠なんてない。『やるしかない』と覚悟を決めて闘うだけ」

貫き通す意志

井岡一翔:人って弱いんですよ。

自分を律する。決めたことを忠実にやる。そこに関しては競技者としての強さ、弱さは関係ないじゃないですか?

だけど、「決めたことを信念持ってやり続ける」って、簡単そうでなかなかできないんです。

たとえば、起床後にロードワークをして、この時間に食事を摂ってからジムに行き、帰宅後にストレッチ――と、目標達成のために「やること」を設定しますよね。それができなかったときに何を思うか。そこがすごく重要なんです。

学生時代、布団から出られなくて「もうちょっと寝たい」と朝のロードワークをサボったことがありました。朝練に出ずに登校して授業を受けたんですけど、一日中、楽しくない。罪悪感でいっぱいで充実感がないんです。そう感じる人じゃないと、たぶん成長はできないんです。

「モチベーション」って言葉がありますけど、「モチベーションがあるからやる」じゃ、だめなんです。「少しでも可能性があるほうにチャレンジする」というのも違う。環境とかタイミングとか、目標を達成するために大事な要素は色々とありますけど、一番大事なのは決断力。「ここに進む」と決めたら、逃げ道を作らず貫き通す意思だと思うんです。

《世界最速、日本人初――そんな冠がつく伝説をいくつも創ってきた井岡一翔(36)。レジェンドが、キャリア終盤で5階級制覇という日本ボクシング界では前人未到の大勝負に出る。「年齢や身体のサイズを理由に否定的な意見も出ているが」との記者の問いに、井岡は冒頭のように返した。「5階級制覇できる自信があるから、挑戦するわけじゃない」とも。》

井岡:5月にフェルナンド・マルチネス選手(34)とのダイレクトリマッチを落として、キャリア初の連敗となりました。これからどうするか。スーパーフライ級の世界タイトルを取り戻すのか、バンタムに上げて5階級制覇に挑戦するのか――そう考えたときに浮かんだのが、僕の周りにいる人たちの顔でした。

応援してくれたり、支えてくれたりしている方たちに恩返しがしたい。ならば少しでも大きな挑戦をすべきだと思ったんです。「やっぱり、あいつは凄い」「応援してきてよかった」って喜ばせたい。「あいつ、まだ終わってないんやな」とアンチを見返したい。4階級制覇している者しか挑戦できない5階級制覇に挑まずしてボクシング人生を終えるのは違う、という思いもありました。

《階級を上げる場合、ただ単に筋肉量を増やせばいいわけではない。骨格に対する適切な筋量があるからだ。筋量を増やしたことによって動きが悪くなれば、勝利は遠ざかる。軽量級からスタートした井岡は中量級のバンタム級に挑むに際し、「プロデビュー以来、作り上げてきた考えや試合までのプロセスを壊した」と言う。》

井岡:どのスポーツでも、まずは体づくりをしますよね? フィジカルを鍛えてから、余計なものを削ぎ落とす。自分に必要なもの、不要なものを見極めて、コントロールしやすい体に仕上げる。

ところが、これまで僕はそういう作業をやってこなかった。フィジカル的なものを作らずして、自分の感性、感覚を高めることに重きを置いてきたんです。

井岡一翔の強さとは何か?

井岡:スピードやパンチ力が抜きん出ているとか、そういうわかりやすいボクシングじゃない。「何が他人より優れているのか」と聞かれたら自分でもわからないんですが、相手の間合いを崩し、相手の長所を潰すことを徹底して僕は勝ってきた。

試合が決まり、相手を研究して戦略を立ててリング上で相対しますよね。自信を持って対面するのですが、相手も準備してきているからまず噛み合わない。

じゃあどうするか。その局面を打開するための鍵穴を探り合うんです。鍵穴を探り当てた瞬間、パズルが解けるみたいにガチャガチャと展開する。

スピードもパワーも、もちろんアドバンテージではあるんですよ。でも、鍵穴を探り当て、相手のロジックがわかれば間合いを支配できる。速かろうが、パンチ力があろうが全然、怖くないんです。クリーンヒットしないから。

準備してきた引き出しを、場面に応じていかに使うか。経験に裏打ちされた状況判断能力と発想力。それが僕の強さなんだと思います。

「青春なんですよ」

井岡:ただ、バンタム級は僕にとって未知の領域。これまでのスタイルは通用しないかもしれない。逆に言えば、大きく変えるチャンスでもある。上半身と下半身の筋力トレーニングを取り入れ、筋肉の″繋ぎ目″も鍛えた。出力アップに重点を置いたのですが、そこに発見があった。気づきがあったんです。

ボクサーって走ったり、サンドバッグを打ったり、心肺機能を鍛えるトレーニングはずっと積み重ねてきている。

ただ、肺活量のスタミナと筋肉のスタミナって別なんです。今回、フィジカルを重点的に鍛えたことで筋持久力が伸びた。筋持久力がつくことによって、「いい動きに繋げられる時間」がすごく延びた。強いパンチが今まで以上に「長く」打てるようになり、試合でペースを握りやすくなった。これまで、打ち合いの中で相手に距離を取られたら、相手に合わせて僕も疲れをリカバリーしていたのですが、そこで休まず攻めていけるようになった。相手を下がらせられれば、自分の間合いが取りやすくなる。自分だけ打って、相手のパンチはもらわずに済む。これまでと逆の動きができるようになって、「俺って、めっちゃ伸びしろあるな」って気づくことができたんです。

目標の達成はもちろん嬉しいですが、そのプロセス――自分と向き合い、成長を実感できたときが僕は一番楽しい。

《偉業達成のためには、大晦日に行われるWBAバンタム級挑戦者決定戦、マイケル・オールドスゴイティ(24)戦をクリアせねばならない。中量級へのモデルチェンジの途中での試合となるが、井岡の表情は明るい。》

井岡:大人になるにつれてワクワク感ってなくなるもの。僕もいつしか、ベルトを獲っても昔ほど喜べなくなっていた。それがいま、「強くなれる要素がまだこんなにあるんか」って毎日、ワクワクしているんですよ。若い子たちとジムで一緒に汗をかきながら……なんかもう、青春なんですよ。男って心のどこかにずっと少年がいると思う。僕の心は青春、高校の部活の感覚のままなんです。

ボクサーという職業をやらせてもらって、この年になって思うんですけど、人って「嫌いなこと」はできないんですよ。好きなことのためだけにしか嫌いなことってできないんです。自分が好きなことを見つけて、それを仕事にして対価を得る。三浦知良さん(58)がいまも現役でやられている意味ってそこにありますよね。「動けてない」とか「おちぶれた」とか、他人に何を言われたって本人が一番キラキラしている。そこに勝るものなんてないんですよ。

僕もアンチはいますし、ボロクソに言われることだってありますけど、友達には「羨ましい」って言われます。「好きなことに夢中になれて、毎日ワクワクできて、大観衆の前でリングに上がれる。それだけで十分やろ」って。

「何もない人生は無難な人生。何かある人生は有り難い人生」

最近出会った言葉です。まさしくその通りですよね。僕も公私にわたって色々ありましたけど、それは「行動」してきたから。高い目標を設定してそこに突き進んでいれば、いろんなことが起こる。今回の発見、気づきだってそうです。

20歳でプロのリングに上がってから、怖さは常にあります。「やれる」と思ったから5階級制覇に挑むわけじゃない。

でも、「やる」以外の選択肢はない。

どんな結果が出ても受け止めて、何が足りないのかを考えて、また前に進めばいい。大事なのは自分の人生の充実。人生を謳歌(おうか)できているかどうかじゃないですか。5階級挑戦を決めた自分に、僕は感謝したいですよ。

中1でボクシングを始め、アマでのキャリアは100戦超。キレのある左ジャブを軸に間合いを支配するスタイルでプロ通算31勝16KO
「バンタム級・井岡一翔」は未完成だが、「大晦日は強くなった姿を見せたい」
井岡一翔 「5階級挑戦を決めた自分に感謝したい」肉迫撮&ロングインタビュー
本誌未掲載カット 井岡一翔 「5階級挑戦を決めた自分に感謝したい」肉迫撮&ロングインタビュー
本誌未掲載カット 井岡一翔 「5階級挑戦を決めた自分に感謝したい」肉迫撮&ロングインタビュー
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『FRIDAY』2025年12月19・26日合併号より